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宇野千代の人生と文学
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■ 『宇野千代全集』の刊行
昭和52年7月の第5巻(小説五)を皮切りに、中央公論社から『宇野千代全集』の刊行が始まった。翌53年6月の第12巻(随筆四)までの全12巻が毎月1冊配本されるものである。
今日、全集のポスターが届いて来た。見た瞬間、私はあっと声を上げた。紙の真ん中に印刷された大きな女の顔。忘れもしない、あれは二十何年か前に出た「おはん」の表紙の顔である。吊り上った大きな眼、情感を湛(たた)えた唇、哀れに優しく、強く、愛の深さを秘めた顔であるのに、恨みの念の欠けらもない、幽玄な顔。この顔を全集のポスターの紙一ぱいに再現して、その上に、「愛の哀しさと別れの美しさを描きつくした情念の作家」と言うキャッチフレーズの書いてあるのを見た私は、いささかも照れることなく、そうだ、その通りだと肯定したと言うのは、何と言う好い気なものであろう。私は素直なのか、馬鹿なのか、それとも自惚れ屋なのか。それにしても、作者本人に、こんな気を起させるとは、キャッチフレーズの絶品か──(『或る日記』昭53・四集英社)
千代が敬慕してやまなかった青山二郎が本の装幀をした。千代はその装幀を喜んでこう書いている。
全集第一回配本分の見本を、今日、届けて貰う。青山二郎の装幀が、何とも美しい。背皮に印刷された題字は、中国の何とか言う古典本に使われた、木彫の活字とのこと。典雅で気品がある。お蔭で、美事な本が出来上り、この老年になって、「花が咲いたような気持ち」と言ったものである──(同前)
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