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宇野千代の人生と文学





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宇野千代の人生と文学

■ 藤村忠との出会い

 私の失恋の特色は、憑き物が落ちたようになって、それからあとは恋人のあとを追わないことである──と言う千代のことであり、何事もなかったように生き生きと、雑誌購読勧誘の仕事に取り組む。千代の最初の夫となる藤村忠との出会いは、千代19歳のこのような時期のことであった。
 或る夕方のことであった。私は弟妹たちを連れて、臥龍橋(がりょうばし)の下の河原へ、氷を食べに行った・・・「ありゃ、千代さんかいの。あんまり別嬪におなりたので、よっぽど、見間違えるところじゃったでよ」と言う声がして・・・あの鉄砲小路の伯母が、腰を浮かして立っているではないか・・・見ると、伯母の腰掛けに、帽子を冠って袴を穿いた、学生風の若い男が、腰掛けているではないか。帽子には、三本の白線が入っている。誰の眼にも、京都の第三高等学校、所謂(いわゆる)三高の生徒だと分かったのであった・・・そのことがあってから、私はときどき、弟妹たちをつれて、鉄砲小路へ遊びに行くようになった(『生きて行く私』)──「三高の生徒」は藤村忠(ただす)である。




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